「夏休み砂浜開放」をふりかえる座談会
みなと芸術センターに引き継がれていってほしいこと
—―—「夏休み砂浜開放」で生まれた空気感や関係性を、今後みなと芸術センターという劇場に、どう引き継いでいってほしいですか。
小栗
一番思うのは、遊べる空間があったらいいな、ということです。劇場は、どうしても演目を観に行って、観て終わり、という場所だと思われがちですが、みなとコモンズのような、いろいろな発想や過ごし方が許される居場所的な空間が、劇場のどこかに残っていたらうれしいです。
おかだ
みなとコモンズは匿名性が保たれていて、そこに安心感がありました。子どもたちが自分の話をしてくれることがあっても、それを特別深く掘り下げるわけではない。見守りスタッフの皆さんも、今回は俳優の方が多かったですが、わざわざそのことを最初から伝えることもありませんでした。あの場にとって、そういうことは必要なかった。日常生活の肩書をいったん放り投げて、ともに集まる人が作用しあう場であってほしいです。
—―—流動性があり、匿名性が保たれる場だからこそ、普段出会えない人たちとの出会いが生まれますよね。
小栗
アーティストの立場からいうと、私が普段出会うのは音楽に関心があって、ある程度、音楽に関する知識のある人が多くなってしまいます。でも、こういう場所にしれっと混ざっていることで、まったく違うルートで出会える人たちがいる。最初から壁を取り払って巡り合える感覚がありました。
おかだ
ワークショップなどの目的がなくても、ただ過ごせる遊び場がある。でも、やはり目的性がない場所は、使い方に困る人もいたりします。なので、過ごし方をゆるく示す人として、同じ空間にアーティストがいるのは面白いと思います。ある意味、振付ですよね。私は今回、意識的にゴロゴロしてました。それも、この場に対する一つの振付だと感じていました。そこにいる人が点として示して、その間の線は自由、という感じですよね。
—―—オープンスペースや居場所は、「この人がいるから行きたくなる」という話をよく聞きますが、やはり、その場にいる人の雰囲気や間、身振り、その場の扱われ方で、利用する人の過ごし方が大きく変わることを再確認する日々でした。

—―—それでは、最後に今回の経験が、お二人それぞれの制作や活動に、どのような影響を与えたかを聞いてもいいでしょうか。
小栗
今回すごく鍛えられたのは、柔軟さです。作品づくりのなかで、自分のやりたい表現を揺るがず突き詰める能力は、もちろんすごく大事で、持ち続けていますが、一方で、だれかが自分と触れあうことでも、なにか豊かなものが生まれてくるという体感、経験をつめたことはすごくよかったです。楽器がそこにあるだけで十分なんだ、という体験でもありました。影響がどう形になっていくかはこれからです。
おかだ
一言でいうと、すごく肝がすわりました。匂いの強い体験でした。カレー屋の前を通ったときに、身体全身で感じる感覚です。多分毎日カレーを食べていたら、そこまで反応しないですよね。今までこんな経験をしてきたことがなかったからこそ、食べたことのないカレーに出会って、匂いが身体全身に入ってきた、そんな感覚です。アーティストとして、技術の質がアップした経験ともいえるんですが、それ以前に、人としての根源的な経験だったと思います。それが、これから身体表現を作っていくうえで、必須のものになると思うんです。なんだかまとまらないのですが、まだ結論はでていないのかなと思います。
—―—本日はありがとうございました。2025年11月30日に開催した「開館2年前 プロローグ・イベント」4では、お二人のお力もお借りして「〜砂浜でひとやすみ〜出張!みなとコモンズ」として、各プログラムの合間に立ち寄れる休憩スペースや、子どもたちの遊び場となる砂浜空間を設けました。今後もこうした流動的な居場所や、アーティストと観客が対等に出会えるような遊び場を、作品の上演と並走しながら、劇場のなかで育てていきたいと考えています。
(取材・文:みなと芸術センター開館準備室)
おかだゆみ
幼少期よりクラシックバレエを習い、中高で創作ダンス部に入ったことを機に振付を始める。10代後半よりコンテンポラリーダンスを学び、現在の身体表現につながる。
日本大学芸術学部演劇学科洋舞コース卒業。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。
舞台作品の演出・振付を行ったり、演劇祭や地域の芸術祭にて人々と関わるパフォーマンス作品を展開している。YDC2024コンペティションⅡにてアーキタンツ・アーティスト・サポート賞を受賞。
また、自身もパフォーマーとして様々な演出家・振付家の作品に出演している。


小栗舞花
音楽大学で現代音楽を学ぶ傍ら、人と音を介して関わる場に惹かれ、音楽療法における即興的実践など、身体の内側から生まれる音楽に関心を寄せるようになる。以降、人が楽器や音と関わる原初的な営みそのものを音楽として立ち上げる作品を、自身の美学にもとづき創作している。作品は、アンサンブル・ノマドの定期演奏会で取り上げられるほか、ヴァイオリニストの加藤綾子への新作提供など、その独創的なアプローチが注目を集めている。
国立音楽大学作曲科首席卒業、同修士課程修了。第11回JFC作曲賞受賞。松井周の標本室第3期所属。近年は「だれかと共に作る」ときに起こる創造性に関心があり、様々な表現者と即興や共作の活動を展開している。「共作プロジェクト緒」を作曲家の山田奈直と共同主催するほか、共創ユニット「矢野かおる」メンバーとしても活動中。